優良事例

Good Example

地域畜産振興部門

耕畜連携による
地域農業の新たな展開を支える
酪農集団活動

真室川町酪農振興会

2.地域振興活動の内容

(1)地域畜産振興につながる活動・取り組みの具体的な内容

真室川町酪農振興会は、平成2年に酪農経営者3戸で結成した。当初は、緊急生産調整推進対策に伴う転作による自給飼料生産を目的としていたが、その後、公社営牧場設置事業による規模拡大、農業生産体制強化推進対策事業による堆肥製造施設の設置、地域水田緊急再編対策事業によるマニュアスプレッダーの導入等国庫、県単独の補助事業を積極的に活用して発展し、現在の構成員の飼養規模は、佐藤和彦氏(41歳)経産牛100頭規模、佐藤正樹氏(31歳)経産牛50頭規模、青木寛治氏(62歳)経産牛20頭規模で、真室川町の飼養頭数の80%を占める。

同振興会の結成当時の堆肥処理は自己完結型であったが、平成9年から11年にかけて公社営牧場設置事業で規模拡大を図ったことにより、堆肥の処理が課題となった。

このため、平成10年に農業生産体制強化推進対策事業により堆肥処理製造施設を設置、更に堆肥の需要増加が見込まれたため、平成12年には畜環リ-ス事業で堆肥舎(324㎡)を、また平成15年には地域循環型農業確立支援事業により堆肥舎(166㎡)を、また野菜生産組合が県単事業である園芸産地拡大強化支援事業を利用し、酪農振興会構成員の牛舎に隣接して堆肥舎(648㎡)を17年に設置した。

この頃、家畜排せつ物の利活用促進と地域農業の振興を図るため、更なる土作り推進の課題解決に取り組む、県、町、農協等関係機関・団体からなる「エコアグリプロジェクトチ-ム」が結成され、堆肥供給源と散布組織の役割は、同振興会に求められた。

このため、同振興会では、平成16年に地域水田緊急再編対策事業によりマニュアスプレツダ-1台(3.5t)を導入、平成8年に取得したマニュアスプレツダ-  1台と合せて散布機2台を保有した。

また、堆肥流通の促進、堆肥散布作業の効率化を図るため、堆肥の一時ストック場所として、耕種側が15年に400t規模のストックヤ-ドを、また16年には150t規模のストックヤ-ドを、さらに17年には簡易ストックヤ-ド(100t規模2箇所)を県単独事業等により設置した。

同振興会の堆肥生産は乳牛の糞尿4,000tと町内で産出されるオガクズ及び隣接市町村から排出するきのこ菌床廃オガクズ等2,000tを原料にして3,000tの堆肥を生産しているが、堆肥処理は牛舎に隣接した堆肥舎で1ケ月の堆積、その後堆肥製造施設(オープン攪拌機及びマルチスクリュ-攪拌機を装備)で3ヶ月間発酵処理、さらに野菜生産組合が設置した堆肥舎で1~2ケ月間堆積、切り返しを行った後、ストックヤ-ドへ運搬している。ストックヤ-ドからはストックヤ-ドで2ケ月堆積したものは園芸作物用に、6ケ月間堆積したものは水稲用に、それぞれ散布している。また町内の園芸作物の主力品目である「タラノ芽」収穫後の駒木(6t)を粉砕処理し、これも副資材として利用している。

ストックヤ-ドへの運搬は酪農振興会のメンバ-と耕種側の人たちが行っており、酪農振興会のメンバ-は2tダンプ4台を駆使し、ストックヤ-ドに集積する堆肥の約60%を運搬している。

ストックヤ-ドを通した堆肥供給量は、平成17年は、水稲が1,040t(80ha)、野菜等(ニラ、ネギ、タラノ芽)が360t(24ha)計1,400tであり、平成13年の堆肥供給量170tの8倍になっている。

堆肥撒布は、大半は酪農振興会のメンバ-が耕種側のオペレ-タ-とともに主に春と秋に実施しているが、堆肥散布期間の延長、作業の効率化と堆肥ストック量の平準化を図るため、2月下旬から4月上旬には、積雪の利点を活かした雪上撒布も実施している。

堆肥の需要増加に伴って、受注、代金回収、運搬、散布作業を確実にするためにこれら事務処理についてJA真室川に申し入れた結果、農協の営農指導方針に沿った取組みの理解を得て同農協がこの事務処理を無料で引き受けている。平成17年の堆肥生産販売の収支状況は、収入5,411千円、支出2,921千円、差引2,490千円の利益を出している。

【図-1 堆肥生産販売のフロ-(平成17年実績)

堆肥生産販売のフロ-

(2)当該事例の活動目的と背景

平成2年に飼料作物の収穫調整作業を共同で実施するため、酪農振興会を結成し、水田農業確立対策推進事業により、牧草の刈取・収穫・調整・の機械一式を導入した。

この頃、構成員の堆肥は個別相対で処理していたが、平成9年から11年にかけて実施した公社営牧場設置事業による規模拡大に伴い糞尿処理が課題となった。

このため、平成10年に同振興会は農業生産体制強化推進対策事業により、オープン攪拌機及びマルチスクリュー攪拌機を備えた堆肥処理製造施設(1,092㎡)を設置した。

水分の多い乳牛の排せつ物を原料にして良質堆肥を生産するためには、水分調整の副資材確保が課題となる。幸い、真室川町始め近隣地域はきのこの菌床栽培が盛んで、きのこ栽培後に排出する廃オガクズの処理が問題となっていた。同振興会はそこに着目してきのこ生産者を訪れ、廃オガクズの提供を交渉し、堆肥製造処理施設まで運搬付きで無料提供してもらっている。また、町内で排出するタラノ芽の促成栽培の廃駒木(6t)も粉砕して副資材として活用する取組みを始めた。

生産した堆肥の品質向上を図るために、畜産の仲間であり肉牛繁殖農家でもある野菜生産部会長に働きかけて堆肥の実証試験や堆肥の効果を実証する展示を行い、堆肥による土作り効果を野菜農家に理解してもらった。

この頃、県、町、JAでは循環型農業の推進、エコ農業の推進、園芸振興の推進、それを実現するための耕畜連携システムの構築等を施策課題として取り上げていた。

同振興会は、それまでの活動成果からこの課題解決の重要な受け皿として注目され協力を求められたので、積極的に参加した。

その結果、JA真室川町が推進した売れる米作り生産を目指す『高品質、良食味米の生産方針』の中で同振興会が生産する堆肥は大きな役割を果たしている(堆肥の施用1t/10a)。米余りの需給情勢の中で、JA真室川町の出荷米は価格が堅調で、順調な取引を可能にしている。

そまた、園芸作物生産ではニラ栽培圃場への施用方法は従来の全層施用から表面施用に切り替えた結果、増収と品質向上の効果に限らず雑草防止、堆肥の大量施用(10t/10a)を可能にした。これらにより、真室川町の

以上の同振興会の活動は、真室川町内の堆肥需要の拡大を誘発しており、畜産経営の規模拡大において制約条件となる家畜排せつ物処理問題を解消し、地域内の畜産振興の間口を大きく広げている。

(3)活動の成果

真室川町酪農振興会の堆肥の販売量は平成13年には170tであったものが、平成17年には1,400tと約8倍 に増加してきている。特に平成15年から17年にかけての増加は著しく、350tから1,400tと4倍に増加してきている。

同振興会の生産した堆肥等を利用している、有機米などの「こだわり米」の出荷量は町全体の55%(4万表)に達し、栽培面積も拡大してきている。こうした良食味米への取組みの成果として、平成16年の「お米日本一コンテスト」で町内の農家が最優秀賞を受賞、平成17年の「全国米食味分析鑑定コンクール」でも町内の農家が金賞を受賞している。

更に、園芸部門では、転作作物としてネギ、ニラ、タラノ芽の生産がこの5年の間に急速に盛り上がり、作付けが拡大してきている。この地域は、タラノ芽の産地として以前から有名であり、ニラも以前からあったが、それに加えて3年前からネギが導入され急速に増加してきている。平成17年の園芸部門販売額は2億8千万円で、平成13年以降順調に増加しており、これを可能にしたのは、土作りの重要資材である良質堆肥を潤沢に供給している同振興会の役割に負うところ大である。JA真室川町では5年後の販売額5億円を目指しているところである。

【図-2 堆肥供給実績とJA園芸取扱額の推移】

堆肥供給実績とJA園芸取扱額の推移

地域におけるエコファーマ-は平成15年はゼロであったが、平成18年7月現在では66名に急増してきている(水稲25名、ネギ農家41名全生産組合員が認証)。
これは、減農薬栽培、減化学肥料栽培への関心が高まってきている証であり、これらエコ農業技術の核心となる良質堆肥の施用技術が普及しているのは、同振興会の活動に負うところである。

このような動きを受けて、最近、近隣の市町村でも、アスパラの園芸作物を中心とした耕種農家と畜産農家の連携が進んできている。

【表-2 近隣市町村の動き】

市町村 組織名称 散布面積(ha) 内  容 散布地区
最上町 最上町堆肥散布組合 15 肥育農家の堆肥利用、
アスパラ産地化を推進中
全 町
舟形町 福寿野減農減化学研究会 酪農家とニラ農家の連携、
特栽ニラでブランド化に取組む
町西部地区
鮭川村 設立予定(平成18年) 50(計画) 堆肥センターを核にした
散布体制整備とこだわり
農産物生産販売を計画中
全 村
新庄市 設立予定(平成19年以降) 計画中 生ゴミ処理の推進と
堆肥散布組織の育成を計画中
全 市

(4)地域振興図

地域振興図

(5)今後の課題

今後、真室川町では堆肥の需要がさらに拡大していくことが予測されるが、真室川町酪農振興会では現在の堆肥の生産量を更に増やすことは、労働力と施設設備の面から困難である。

この課題を解決する方向性は、町内肉用牛生産者組織(52戸、飼養頭数388頭)と連携して新たな良質堆肥を生産供給する仕組みづくりを検討する。

また、構成員の今後の酪農経営の維持発展を図るためには、自給飼料の確保に取り組む必要がある。

この課題を解決する方策は、平成16年に結成された飼料生産作業を請負う真室川町コントラクター組合(構成員6名)との連携等を検討する。同組合は、イネWCSの生産に取組んでいるので、地域農地の有効利用と自給飼料増産の観点からイネWCS生産に限らず、デントコーンや牧草の栽培等を行う組織に発展する方向性を検討する。